大友さんの第九と年越しと年明け

2023年の特別第九は大友さんでした。

私が入団したころ京響の常任指揮者だった大友さんは当時40代。今はすっかりロマンスグレーの大御所になられているけれど、あの頃から体型も全く変わらず、姿勢もピシッと、テンポもピリッと速いまま。情熱は昔より増している気さえしました。今回久しぶりにご一緒させていただいて、やっぱり一流の指揮者でいらっしゃるんだなー、さすがだなぁと思うことが多かったです。
特に、終楽章をあんな、まさかの完全1ツ振りで始める勇気のある指揮者は、きっと世界に何人も居ないだろうと。振れる指揮者もそうそういないだろうけど、まず勇気だよね、迷いがないもの。凄いよね。あれでちゃんと出られてそしてズレない我々も結構エライと思うけどさ笑笑笑…と、大盛り上がり。本番もズレなくて、本当に、偉かったです笑。今年1番の気合いを皆で寄せ集めました笑。でも、あえてリスクを取って、全員分の気合いがガッ!と集まったからこそ出る音、というのは確かにある気がします。そして、それを引き出せるのは、指揮者の力。指揮者って、不思議で、凄い仕事です。
大友さん、ほんとにカッコ良かったです。

それにも増して、今回の白眉は、何と言ってもバリトンの大西宇宙さんでしょう。聴きに来てくださったお客さんも、あまりの迫力に驚かれたことと思います。本当にびっくり。
1楽章から3楽章、4楽章序盤まで、必死のパッチで吹いてきて、その年その日に持てる力を出し切って演奏したあと、あんなふうに叱られちゃったら(「おぉ友よ!このような音楽ではない!」)、頑張った甲斐もあるというか、嬉しくって仕方がない笑。リハーサルで歌ってくださった初回から、我々はすっかり度肝を抜かれて、あのバリトンソロを聴けるなら頑張ろうと、頑張りました◎
大西さんには、
「なんか、木管後列、いつも楽しそうに吹いてますネ」
と笑われて笑、うふふ。だって最高です来年も来てくださいとお願いしておきました。

29日にはグワっと年末大掃除をして、30日には朝から我が家恒例の餅つき大会をして、午後からは大掃除の続きと買い物とおせちの手順の整理と夜は忘年会。31日に母とおせちの準備をしながらいたら、ひと段落した頃に父がおもむろにリビングで音楽をかけ始めて…

父だけが大事に持ってくれている(私は持っていない笑)、そして聴き続けてくれている、私が25歳の秋に日本音楽コンクールの本選会で演奏したモーツァルト。に続いて、翌春に行われた優勝者披露演奏会でのウェーバー。に続いて笑、その後にN響首席の皆々様と共演させていただいたモーツァルト五重奏曲。笑。たぶん、すべてNHK FMで放送されたものを、父が録音してくれたんだと思います。もう20年も、大事に聴き続けてくれています。
…少し前までは、若い頃の自分の演奏なんて変な汗が出るばかりでとても聴けなかったけど、一周回って少し冷静に聴けるようになり、また、審査員的な耳で聴いている自分の変化にちょっと驚きました。
もちろん、まだ出来てないところも、今ならもっとこう吹くな、と思うところもあるけれど、これはこれだな、25でこの演奏をしたら、確かにまぁ就職もできたわけだな、へぇぇ。と、思いました。
あの頃の、全部が初めてで、全部が恐ろしくて、でもとにかく目をつぶってエイヤー!と1人で切り抜けていくしかなかった当時の自分の心を思い出して、思いがけず初心に返ることのできた、2023年の暮れでした。

信じられないほど暖かくて過ごしやすい年越し、明るい朝だった2024年の元日が、まさかあんな夕方を迎えることになるとは、思いもしませんでした。