春の旅
友人がこの博物館の学芸員で、この展覧会を担当していました。去年はちょうど桜が盛りの時期でしたが、ウチの近所の相国寺さんへ展示予定の文化財や名品の数々を借りに来洛していましたので、会えるタイミングで食事などしながら、全く別々の道に進んでから20年余経ってこんな近くで仕事する腐れ縁を笑いあいました。お互い全くジャンルの違う仕事をしているのに、話せば話すほど分かれば分かるほど不思議と共通点が多いことに驚いたり、美術品取り扱いの緊張感はじめ色々を聞かせてもらったり、間近で直に見た本物の迫力や展覧会にかける思いを熱っぽく話してくれるのを嬉しく聞いたりしながら、じゃぁがんばってねと送り出して、現地で順調に展示の準備も終わって、いよいよ明日開会…という夜に、あの熊本地震が起こったのでした。
彼は、市民の安全と文化財を守るという使命感から、ただちに展覧会の中止を決定し、まだまだ大きな余震の続く熊本から、すべての展示物を再び相国寺さんへ返納しに来ました。
あの時の、疲れきった顔とひとまずの安堵の様子、すっかり痩せた姿を忘れられません。どれだけの思いだったかは、想像するに余りありました。でもひとまず無事でいてくれたこと、信用と責任を見事に守り果たした彼をとても嬉しく頼もしく見上げました。阪神大震災の激震地で17歳だった彼は、大人になって見事に家族と市民と文化財を守りました。今後は災害現場における美術館博物館の貴重な先例として、ひろく語り継がれるのでしょう。
残念だったけど、無事に返せたんやし、生きてたら、きっとまた開催できるよ!だから、気をつけてね!
…と、再び見送ったものの、まさかほんの一年後にそれが叶うとは。きっと開催できると思ったことに嘘はありませんが、あの時はとにかくそんなことより無事でいてほしいだけでした。相国寺さんの粋なお計らいと、きっと彼が得た強い信頼もあったことでしょう。この春の開催が決まって、出来たてのチラシデータを送ってくれたとき、本当に嬉しかったです。
就職が決まった春に手紙と一緒に送ってくれたパンフレットで見たとおりの、芝生の小山の上の素敵な建物。伊東豊雄さんが手がけた最初の公共建築だそうです。
円山応挙の作品、壮観でした。チラシにもなっていた目玉のひとつ、「牡丹孔雀図」は、応挙39歳の作と知って、余計感動しました。あぁ、我々の年代って、人生のそういう時期なんだな、代表作を残せるような、機が熟して、経験も積んで、でもまだ体力と勢いもあって、と、改めて感慨深くもなりました。今をだいじにがんばろう。地下展示室の「大瀑布図」のスケールやアイデアにもため息。これ飾るのも大変だっただろうなぁと、学芸員さんを質問攻めにしました笑。わんこのおシリも可愛かった。息子の応瑞や弟子の呉春・長沢芦雪の作品もありました。
詳しくは、よかったら《古くて新しくておいしい八代「円山応挙展」と「銅鑼焼き」》で検索してみてください、ウェブマガジン「おるとくまもと」さんで素敵にリポートされてます。(リンクを貼ることができなかったことを正直に告白します…汗)
絵を描けるっていいですね。
私は、くまモンを描こうと思ったら意外と難しいことがわかった、充実の旅でした笑
八代港の夕焼け
長くなりそうなので次回に続くことにします。
円山応挙展、6月4日までの開催です。残るゴールデンウィーク、またはその後でも、お近くへ御用のある方、よかったら八代まで足を伸ばしてみてください♪。その際には、地下展示室にアンケートがあるので、「小谷口直子のブログを見て来た」と書いてみてください。ふふふんと密かに喜ぶ人がいると思います笑。
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