バセットホルンの秋

秋の風の中に、冬のピリリとした緊張感も感じるようになってきました。
ついこの間まで半袖だったのももう思い出せないほどに、すっかり冬のお布団を愛しています。

Weberが終わってからの先週、今週。レッスン室に来る子たちの顔が少し明るくなって見えたり、いつもよりよく練習してきてくれているのを感じたり、そういうのが、とても嬉しいです。
完璧に見事に、他を圧倒するようには私は全然吹けなくて、あんなに練習したのにそれでも思うようにいかなかったこともあって、情けない気持ちもありますが、でも、そんなところも含めて、失敗するところも見せつつ、お手本にできるところがあったらしてもらったり、反面教師にしてもらったりしながら、参考資料として活かしてくれたらいいと思っています。カッコいいばかりではいられないし、そうである必要もないと思っています。同じ楽器をやっているのがほとほとイヤになるほど、圧倒的な巧さを見せつけるのは、世界的なプレイヤーがやってくれたらいい。私の場合は、若い頃、先生が失敗した場面に偶然立ち会えた時のほうが、学びが多かったように感じています(たぶん先生は激しく落ち込んでいらしただろうけど)。私たちは、鑑賞者になるために勉強してるわけじゃないから。

まぁでも、年相応に、想像をはるかに超えて疲れ果て、終わった後も1週間くらいは疲れ過ぎてうまく眠る体力がない感じで、ふわふわしたままな中にいました。本職でないことをたまにやるとこんなことになるんだなぁ。コンチェルトを演奏するのが私の仕事の真ん中で、日常であれば、また違うのだろうけど。
うまくいったことよりも、うまくいかなかったことのほうが心に残って、でも仕方なかったんだから、あんなに練習したから後悔はないんでしょう?そうだよ?、と、自分に言い聞かせながら、でもやっぱりうつむきがちに、やっとやっと過ごす1日1日でした。そんな中で、聴きに来てくれていた生徒たちが明るい表情でレッスン室に来てくれ、その中の何人かが
『わたし、先生のクラスに居られてよかったと思いました』
と言ってくれたことが、…それは思いがけないような、驚くばかりの、救いになりました。ありがとう。またがんばれそうです。


さてさて、今週は、来月をお休みしたい同僚に代わって、オペラが急遽お休みになり、来月分の勉強や色々の前倒しと、バセットホルンを!練習しています。
「バセットホルン」は、ホルンじゃなくてクラリネットです。ふつうのクラリネット(Bb管)とバスクラリネット(Bb管)とのちょうど間くらいの音域をもつバセットホルン(F管)は、現代の楽器はアルトクラリネット(Es管←オーケストラではほとんど使用しませんが、吹奏楽をやっている人のほうが近しい楽器です)と似ています。
たくさんあるクラリネット属の中で、唯一F管のバセットホルン。そういえば木管楽器で同じ「ホルン」のつく「イングリッシュホルン」(オーボエ属)も、F管です。
…と、ごちゃごちゃ言っても分かりにくいですが、要するにバセットホルンはホルンじゃなくてクラリネットの仲間です。何より、モーツァルトに愛された楽器。モーツァルトのレクイエムで真っ先に涙を誘う楽器。『人の声に近い音色のする楽器』というのは、どの楽器の人も《我こそは》と使うフレーズですが笑、バセットホルンこそが人の声、と、私は思います。F管って本当に不慣れで耳と頭が混乱するし、ふつうのクラリネットにはない低音域(ミ♭、レ、レ♭、ド)のための親指や小指のキィ操作で大混乱しますが笑、それでも、吹いていると、たぶんちょうど音域と音色の関係が絶妙なのだと思いますが、まるで自分が、心からの声で歌ってるように感じるんです。

『うわぁ〜いい楽器だ〜〜〜』

と、ため息が出ます。うまく言えないけど、このきもち、わかってもらえたらなぁ!
何度か、モーツァルトのレクイエムや歌劇『魔笛』を演奏するたびに心底感激して(自分の下手は置いといて)、数年前に、遂に買ってしまったのです。
…買ったものの、やはり黙っていると演奏機会はほとんどなくて笑、今回、鹿ヶ谷の法然院さんからコンサートのお誘いをいただいたのを喜んで、バセットホルン三重奏の会を企画いたしました。

前半は、5つある「3つのバセットホルンのためのディヴェルティメント」(モーツァルト)を中心に、他のクラリネット属の楽器も持てるだけお持ちして、いろいろ聴き比べもしていただきます。…なに吹こうかなぁ。色々オケスタをさらいながら、むむーと考えています。それぞれの楽器の特色をより分かりやすく感じていただけるようなひと節ずつを、考えたいと思っています(私はBbとAとCとDとEsを吹く予定。楽器が壊れてなかったらバセットクラリネットも)。
後半は、皆さんにもおなじみのメロディを中心にして、バセットホルンの音色やハーモニーの美しさに親しんでいただきたいと考えています。夜の女王、吹きます!笑。
せっかく秋の美しい時期に法然院さんなんていうベストロケーションで演奏できるのだから、できたら日本の秋の歌も演奏したいなぁと思って、バセットホルン三重奏用にメドレーにしました(私が!!!)。編曲なんてやったことなくて、バセットホルンを抱えながらピアノの前で3日くらい、うんうん唸りました。すごい大変でした笑。編曲の知識は素人ですが、バセットホルン愛は凄いので笑、バセットホルンの広い音域とそれぞれの音域での音色の違いを出来るだけ生かして、書いてみたつもりです。聴いてみていただけたら嬉しいなぁ。
それにしても、3人しかいないって、ハーモニーを作るにはものすごく人手が足りない…メロディ役に、ハモリ役を書くと、もうあと1人しかいなくて、単音楽器!和音が出せない人!…当たり前だけど、ガーン、です。ピアノだったら、ドミソも、ドミも、片手で簡単に弾けるのに、ない。笑。単音楽器の三重奏って、すごく手狭であることを身にしみて感じた後に、モーツァルトのディヴェルティメントを演奏すると、

(…モーツァルトって、天才だ!!)

と、分かっていたことではあるけれど、ますます思い知ります…

【バセットホルンを愛でる秋の宵】
10/29(土)18時半開演(20時頃終演予定)
法然院 本坊にて(京都市左京区鹿ヶ谷御所ノ段町30、tel:075-771-2420)
参加料:ご予約2500円、当日3000円、学生1500円
(詳しくは、法然院HP「法然院サンガ」をご覧ください)


銀閣寺から哲学の道を南に下って、山側へお散歩を進めたあたりに静かに佇む法然院は、京都でも屈指の名刹です。私がコロナ禍でチャリティーコンサートをしたいと立ち上がった時、真っ先に会場提供を申し出てくださった法然院さん。ただ有名であるだけでなく、文化的に豊かで、素晴らしい気に満ちた特別なお寺であると感じています。土曜日の夜、紅葉の始まりつつある秋、お天気にも恵まれそうです、ちょっと坂ですが、お出かけいただけたら嬉しいです。
Naoko Kotaniguchi Official Blog

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