卒業②

昨日の京響「オーケストラディスカバリー」は、京響シェフのお一人であり、京芸指揮科教授でもいらっしゃる下野先生のもと、京都市交響楽団×京都市立芸術大学のスペシャルコラボ企画でした。
京芸声楽科の先生方(上野洋子先生、小濱妙美先生、日紫喜惠美先生、北村敏則先生、久保和範先生)をソリストにお迎えし、さらに京響コーラス×京芸音楽学部有志コーラスの皆さまもスペシャルコラボで、《魅惑のオペラ》と題し、豪華にコンサートを楽しんでいただきました。

舞台の上では、プレイヤーの顔と先生の顔が今日だけは綯交ぜになった人たちがたくさん(京響メンバーもたくさん京芸で教えています)と、生徒の顔でありながら既に若い1人の音楽家である凛々しい顔をした青年たちが一緒になり、そうでなく通常通り1プレイヤーである皆々様も温かく迎えてくださって(感謝!)、幾重にも感慨深い2日間(リハーサル日を含めて)になりました。

イチロー選手引退の素晴らしいインタビューの余韻がまだまだ頭に残る中、だけど我々音楽家はプレイヤーとして一線で活躍することと「教える」ことを切り離すことがほぼ出来ない厳しい仕事。教えることに沢山の学びがあるのがどれほど真理であっても、後進の指導の為に自分の研鑽のための時間や労力をゴッソリと割かれることは、今でこそ少し慣れましたが本当に気が狂いそうなほど苦しいというか、うまくバランスを自分で保たないと転覆してしまう、危険な作業です。演奏家としてそれなりのポジションにありながら、お金儲けのために学校で教えている人は1人もいないと思います(お金儲けにやるには割が悪すぎるから真実です)。自分たちもそうやって師匠に貴重な時間を割いて教えてもらったのだから、と、次世代へ恩返しの一心です。スポーツの世界で日常的に教えながら一線で活躍する選手がいないことを考えれば、クラシックの教育界は本当に先生方の善意と涙で成り立っていると分かってもらえないでしょうか。
普段は超多忙な教授職を担って大学を支えていらっしゃるソリストの先生方が、昨日はフルオーケストラを背負って見事に歌われるお姿を拝見していて、色んなことを思って心底感激しました。
そして、私たちも、生徒たちの視線を背後にひしと感じながら、いつもよりチョットだけ緊張して、頑張りました。こんなこと、二度とないかもしれないだけに、今日失敗したら他でどんなに成功しても説得力が…!笑!と、少々頭をよぎったりもしましたが、…いいんです。いいんだと思います。いつもミラクルな先生も眩しいけど、先生が失敗する姿にも、学ぶものはきっとあるはず。失敗から立ち直る姿だって。あるいは、プレイヤーとしての全盛期を、生徒さんたちは知らないかもしれない。でも、それでも、イチロー選手の夕暮れに学ぶべきことが山ほどあったように、年齢と戦い苦しみ脂汗をかきながら、舞台を下りたら生徒には笑いかける、その姿に、若い人たちは気づくことが沢山あるでしょう。今でなくても、将来かならず。


アンコールの最後、「我らの庭を育てよう」(バーンスタイン『キャンディード』より)を演奏しながら、あぁ、下野先生の深いお計らいは、一体どれほどのものであったろうと、また、感謝の涙が溢れました。


この日を最後に、2人の大好きな生徒たちが、私のもとから本当に巣立ちました。彼女らが入学したのと、私が非常勤講師として着任したのは、同じ春でした。1年生の初々しい頃から、私が試行錯誤を重ね苦しみながら【教えること】を学ぶ姿を、彼女らはずっと見ていてくれました。この4年は、演奏家としても、ひとりの人間としても、とてもとても苦しい時期と重なりました。至らないこともたくさんあったと思います、彼女らに助けられた夜もいっぱいありました。最後に、同じ舞台に立てたことは、私にとって最高のご褒美になりました。

ありがとう!!
卒業おめでとう!
宿題 : 幸せになること!


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明日は、もうひとつの大学の、これまた可愛い生徒を見送る卒業パーティー(門下の4人と私の5人でちんまりと)をしてきます。
淋しい春です。柏原芳恵がずっと歌っています。

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