春のさみしさ
2月が逃げて、3月になると、さみしい。もう春がそこまで来ていてさみしい。空気がゆるっとぬるむと、もう涙が出そうになる。また今年も冬が終わる。さみしい。
譜読みもリハーサルの日々も何もかもが厳しいびわ湖オペラも、歌合わせが済んで中休みに入ると、もう後は通し稽古と本番しか残ってなくて、これまた毎年さみしい。終わる前からさみしくて、柏原芳恵ちゃんが今年も頭の中で歌っています(若い人へ:「柏原芳恵」「春なのに」で検索Go)。2回の本番が終わって、あまりの疲れに足を引きずりながらびわ湖を出る夜には、次の季節が来ているのが毎年です。
今年は、それでなくても、始まる前から白鳥の騎士が帰ってしまうのが分かってるからさみしいのに。
帰るなら来ないで欲しい。名前くらい教えて欲しい。名前を聞いたくらいで帰らないでほしい。…いやいや、だいたい、誰か知らんのに結婚できない。むりむり。名前どころか、トシも一応聞きたいし税金ちゃんと払ってるか借金はないか、兄弟はいるかいないか、親はどんなか、食べ物の好き嫌いはあるか、なんなら血圧くらい聞いておきたい。…あ、話が逸れました。
そうは言っても、もう、気持ちがずっとエルザで笑、さみしいのです(若い時にすごく愛したオペラは、これだから困ります)。
譜読みをしていた時も、エルザがローエングリンの名前を聞いてしまう時と、ローエングリンが名乗ってしまう時の、その手前で、あまりに辛くて練習をやめてトイレに行ったり、ご飯を食べたりしてしまいました笑。今でも、リハーサルの途中で、同じところで楽器を置いて頭を抱えそうになります。エルザ、聞いてはいけない!と。あるいは、好きになってはいけない!と。
聞いてはいけないことを聞いてしまう。愛するあまりに、不安にかられて。知らんけど。
幸せになるには、鈍な方がきっと簡単ですね。色々考えない人のほうが、強い。…また話が逸れました。
2/20のコンサートの時に、
「クラリネットは、いつもオペラで、一番清らかな場面で出てきます」
と言いました笑。本当は、一番清らかな場面と、加えて、その真反対の、地獄の呻きのようなおぞましい音の両極を一本で引き受けてしまうのがクラリネットの凄みだと私は思っていますが、ローエングリンでは、一人で地の底みたいな音を引き受けることは珍しく無くて、ひたすら、エルザの清純と、涙に寄り添う役割だと思っています。「清らか」といっても、ハッピーとアンハッピーの、やはり両極を担います。愛を信じて疑わない透きとおるような幸福と、全てを諦めて力なく流れるひとすじの涙になります。幸福だけどどこか不安がよぎるとか、こぼれ落ちた幸福の温もりがこの手に残っているとか、両極のそれぞれで、幸と不幸が紙一重のような、どこか儚い繊細な風情が、ビブラートをかけない透明なクラリネットの音でこそ出せるのだと、ワーグナー先生も思ってくださっていると、勝手に思って、こりゃがんばらなきゃな〜と思っています。知らんけどです。
今回は[セミステージ形式]で、びわ湖ホールさんの公式SNS各種でも写真が公開されているのでもう書いていいと思いますが、どうなるかというと、オーケストラはピットではなく舞台の上に乗っていて、キャストの方々はオーケストラより前で歌われ、合唱は舞台の正面最奥に並んでいます。コロナのせいで、本当は大合唱のはずなのに少数精鋭で、天井にも反響板にも守られずマスク有で本当に気の毒です。だけど素晴らしい。キャストの方々は、マエストロより前なので、指揮を間接的にしか見られず、マエストロも歌い手さんを間接的にしか感じられず、とてもやりにくいことと思います。それなのに、素晴らしい。
私たちオーケストラは、舞台にそのまま乗るとしたらどうなるか…ここから先を一番気にしていたのですが(配置によって、アンサンブルの難しさも、吹きながら考えることも全然違ってくるからです)、舞台の上だからと言って普段のシンフォニーコンサートの並びにはならず、ピットの並びのまま、そのまま舞台に上って、オーケストラピットでの働きを再現することになります。もちろん、ピットに沈んでいる時より鳴ってしまうので、かなり音量を制御して演奏しなければならないことは言うまでもありませんが、ピットでは、壁に囲われているから遠く離れている人たちの音もある程度(壁に反射したりして)聞こえるのですが、今回はただの舞台なのでそれがなくて、一番難しいといえばそこかもしれません。一番外側にいるフルートさんが根音を持ってるから乗っかりたいのに全然聞こえないとか、弦楽器の内声が殆ど聞こえないとか。向こう岸(金管打楽器チーム)とこっち岸(木管チーム)で時差があるのも、例年ならピットに入ればある程度掴めたり狙えたりするのに、今回は、合っていると願うしかない笑。
たぶん、[演奏会形式]だったら、オーケストラは普通の並びであることが多い気がします。でも、色々難しさを超えて、お客さんには、普段見えないオーケストラピットの中を覗き込んでもらえるようなイメージなのだとしたら、それもまた楽しいと思っています。
歌い手さん達の衣装替えもなくて、舞台のセットも殆ど無く、それでも限られた環境の中で出来ることの全てを注ぎこまれたステージで、美術さんや照明さんの凄さに感じ入るばかりです。白鳥に乗って、ローエングリンがやって来るところで、
「うゎー!来た来た来たーーーー!」
と、小躍りしてしまいました、今日吹きながら。(忙しい)
どうぞお楽しみになさってください。
何ということかエルザ役が両日とも急遽の変更となりましたが、お2人とも、涙が出るほど素晴らしいです。
若い方へのお得な券も、有料配信もあるそうです。最後までみんなで元気に安全に頑張ります。応援いただけましたら嬉しいです。
今月の出演予定をと思って書き始めましたが、長くなったので改めます。
代わりに、最近の鳥ギャラリー、してもいいでしょうか。
ガチョウのガー子さん達。超〜かわいい。全然上手に撮れないので乱打失礼いたしました(雰囲気伝わりますか焦)
舞台袖の除菌鳥。たぶんびわ湖スタッフさんのお手製。さすがのつけまつげ!(手をかざすとブシャーとアルコールが出ます)
今にもロシアへ飛び立ちそうなコハクチョウさん達を、やさしいお友達のおかげでギリギリ見送りに行けました☆(私のポンコツカメラではこれが限界でした、肉眼では脳内変換も手伝って大変素晴らしい景色と神々しい姿でした) 白鳥さんさようなら〜
***おまけ***
びわ湖ホールさんが新調してくださった、新しい譜面灯が最高です。LEDでクッキリ明るく、明るい範囲が広く、熱くならず、ボディもスリムで、前方の視界が広々〜!これでこそです〜令和万歳〜!
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