室内楽の愉しさ
びわ湖が終わった翌日。
ブラームスの2番ソナタの合わせをしていて、すごく、驚いたんです。
何がって、その前日までしていたのは、10m、20m、あるいはもっと先にいる、指揮者や向こう岸や遠くの歌手の方や聴こえない弦楽器と必死に交信しようとする作業でした。空中で、それは必死に、聴こえないもの見えないもの分からないものを相手に、
こうじゃないか??
たぶんこうでしょう??
違ったかもしれない!
しらん〜!
いけたかもしれない!
しらんけど!
…やや乱暴に言うと一事が万事こんな感じで、空中で祈ると願うと謝るの繰り返しだったわけです(しらん!と言っても捨て鉢になってるわけじゃなくて笑、いちいち迷ったり落ち込んだりしていたら終幕まで気持ちが続かないので、反省は後から。新しいチャレンジは最後の本番まで果敢に。という意味です)。こっちの気持ちが全然伝わってない気がしてもくじけないのが仕事の半分で、あっちの気持ちを分からないなりに想像する(合ってるかどうか確認する術なし)のが仕事のもう半分、みたいな2週間。全部空中で、想像の世界。
それが。
「…2人しか居ないって、素敵…」
第1楽章をサッと通してみて、最初に出た言葉が、それでした。
あなたとわたしの2人しか居なくて、あなたはわたしだけを見て(聴いて)いてくれて、わたしはあなたを一身に感じればいいだけ。しかも、すぐそこに居る…
《か、ん、た、ん…!!!!!!》
…笑。
室内楽が簡単だということではなくて、昨日までの仕事がなんと途方もなかったかということに改めて気づきました。そして、前夜までが大オペラだったおかげで、私は室内楽の親密さを、いつもよりずっと具体的に、実感とともに感じることができました。室内楽は、文字通り「室内」で、それこそ一つの暖房器具でこと足りるようなお部屋で、手に手を取り合うようにして、隅々まで聴き届けて、いたわり慈しむように音を重ねる音「楽」なんだなぁと、なんだかとても、静かで嬉しい気持ちになりました。
(あと、言葉が無い、っていうのも、ものすごい安心感でした。ブラームスの中では、だれもIch liebe dichと言ったりしない。愛に満ちていても、苦悩に震えていても、そんな風に感じるだけで、想像の中にいられる。言葉にも憧れるけど、この安堵は、やっぱり我々器楽の人間は言葉のないプラトニックな?世界の住人なんだな〜と笑、このクリーンな感じが好きだな〜と、改めて思いました。ただいま〜◎)
…そこから始まった楽しい日々が、昨日の本番で終わりました。
(『室内楽の愉しみ』〜公開レッスンとコンサート@アートスペースハーゼ)
まず、想像通り、とても楽しかった昼間の公開レッスン。ピアノ、チェロ、クラリネットと、各楽器おひとりずつのご参加をいただけたおかげで、塩見さんPf、藤森さんVc、小谷口Klがそれぞれ代わる代わる一回ずつ外に出て、2人が残って受講生1人と一緒にアンサンブルして、外から意見する人と、中からアドバイスする人…何の打ち合わせもせず始めましたが、想像通り、全くよどみなく楽しいレッスンが進みました。教えるというよりも、一緒にやって考える。一緒になって考える。室内楽は、そうやって学べたら最高だと思います。私自身が、学生のころ室内楽をたまたま師事できた先生方が、皆さん「ただの先生」でなくて現役バリバリのトッププレイヤーばかりだったからかもしれません。いつも、上からの指導ではなくアンサンブルの内側から、楽譜をどう見るか、相手をどう聴くか、時間をどう動かすか、音楽をどう描くかを、同じ目の高さから教え示してくださいました。コンクール受賞のご褒美にプロオーケストラと共演させてもらったり凄い方々と室内楽を演奏できる機会をいただいたりした中で学んだことも財産です。そうやって先輩方と音を重ねさせてもらうことで勉強させてもらったこと、授けてもらったことを、今度は自分たちが次の世代に同じようにさせてもらう…同じようにはできないかもしれないけれど、できる限りを全力で。そろそろそんなことをするべき年齢に差し掛かってきた気がしていて、今回はそんな思いもありました。
面白かったのは、みんな(講師の3人が)、自分の楽器の弱点にまず言及して、いじけ合っていたこと笑。チェロはどうせこんなだからとか、ピアノなんて所詮、とか、クラリネットなんてもう、とか。みんな、自分の楽器ではできない(苦手な)ことで頭がいっぱい。それは、自分の楽器ではできないような芸当を軽々とやってのける他の楽器が眩しいから余計に。そうなんです。室内楽の面白いところは、それぞれの楽器の長所短所がみんな違うこと。自分と違う相手の姿に憧れて、別の方法で何とかそれに近づけないかと模索することによって、ぐんと表現が広がる。相手にない自分の楽器の魅力を知って、好きになる。それをもっと磨くことをするようになる。[憧れる]とか、[気づく]ことって、成長するためのものすごいエネルギーになると思います。私なんかは、ほとんど憧れだけで今日まで来ました。歌に憧れて、ピアノに憧れて、弦楽器に憧れて。
憧れて近づきたいと思う気持ちと、相手との違いから「クラリネットに何ができるか」を考えていくこと。勇気を出して扉を開いたら、室内楽が教えてくれることは本当にたくさんです。
藤森さんの美しいボウイングを、あんな至近距離で堪能させていただけるこの贅沢も今日で一旦終わりなんだな、と、淋しい気持ちがcresc. al Fine(最後に向かってだんだん大きくなる)で、コンサートはアンコールまで一気に過ぎてしまいました。弓が歌うとはまさにあのこと。エレガントで、雄弁で。目に焼き付けて、憧れて、またしばらく頑張ります。
塩見くんとはもう長くて、もうちょっとで同じ部屋で着替えられそうな間柄?(まだもうちょっとだけ恥じらいが笑)。もう、何も心配しないでも息をするくらい自然にアンサンブルを出来る有難い音楽仲間です。彼も私を見てくれているし、私の背中側に開いているピアノの内側から、私は彼が音を鳴らす一瞬前が聴こえます。今だな、というのが分かります。それも面白いものです。塩見くんは『勤勉な子鹿』で、私は『物静かなペガサス』です。動物占いの話です。昨日ちょっとそんな話になって、2人ともあまりに当たっていて、ツボってました。
(※動物占いは、20年くらい前に流行ったモノ。検索したら出てきます。楽しいのでやってみてください。生年月日が必要です。60種類に細分化されてるやつが更に楽しい笑)
今日と明日は京都芸大の入試。
みんなにそれぞれの春が来るように。
次は、来週のアルカイック木管五重奏!朝から練習したらブラームスが吹き飛びました(ロケット鉛筆みたいな単純な頭と心ですみません)
コロナで集客が大苦戦中とのこと…明るく楽しいコンサートになるよう頑張りますので、よかったら是非おはこびください♪
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