オーケストラ・アドベンチャー!

『The Ring』(Henk de Vlieger編)は、ワーグナー「ニーベルングの指環」を約1時間で聴けるオーケストラアドベンチャー(歌なし)!

どんなにハードで疲労困憊の1週間になるだろうと覚悟していましたが、始まってみれば、アルミンクさんのリハーサルは明るく軽やかに楽しく、あっという間に3日間が終わりました。
何せ普通のオーケストラの配置で舞台の上で演奏できるので、もう向こう岸との時差と必死に闘うこともなく、譜面灯の茂みを掻き分けて遥か先の指揮者を見て手元の楽譜に戻ったら目が迷子になるなんてこともなく、暗い中で慌てて楽器を持ち替えて倒しそうになるなんてこともなく、もう何もかもがAlles klarでノンストレスです。もちろんオケピットの素晴らしさもあるけれど。あの響きと雰囲気をしっかりイメージに持ったまま、皆で音作りを出来ています。

改めて感服するのは、京響の誇るブラスセクション。間違いなく、日本一です。あんなに豊かな音でワーグナーを難なく吹ききれるオーケストラは、国内では他にないでしょう(メンバーに加えて、お手伝いに入ってくださっているエキストラの皆さんにも感謝です)。それが、すぐ背中の後ろで聴こえるので、何と贅沢なことか、これを当たり前と思っちゃいけない、ありがたいなぁありがたいなぁと思いながら吹いています。ピットにいた時は、闇の向こうで聴こえていただけだったけど、今は、すぐ近くにいるので、ブラボーのスリスリをする手足が忙しいです。


ワーグナーと聴くと気後れしたり、話の筋を知らないからなぁ、と思っても、どうぞ何も知らずに来てくださいねと言いたいです。オペラでは確かに歌があり、言葉があり、ストーリーがありますが、ワーグナーは、オーケストラが、全部音で描写します。それを、ただ体感していただくだけで、ものすごく楽しんでいただけるのではないかと思っています。
ワーグナーが凄いと思うのは、本当に、オーケストラの「音」だけで、その場が豊かな川になったり、深い森になったり、そこに木漏れ陽がキラキラと差し込んだり、静かな月夜になったり、突然メラメラと燃え上がったり、舞台全体が今まさにガラガラと音を立てて全て崩れ落ちていくような感覚をおぼえたり、まったく不思議なのですが、本当に、音だけで、まざまざとそれが見えるほどに描写されるのです。中で吹いていて、足がすくむような思いがする時が何度もあります。それから、人間の憎悪や、憧れや、若者の精悍さや、めくるめく愛や、惜別や、…生きていれば皆感じるようなさまざまな感情が、驚くほど鮮やかに《言葉なしに》オーケストラの響きに宿ります。これは本当に凄いとしか言いようがなくて、ぜひ生で、出来るだけ私たちに近い席で、舞台を覗き込みながら、お一人でもたくさんの方に音を浴びていただけたら嬉しいと思っています。

びわ湖ホールさんと歌い手の皆さん達に、ワーグナーを知っているオーケストラに育ててもらったことを、心から感謝しています。

レンタル譜は、前に吹いた人たちの苦悩があちこちに噴き出していて、本当に愉しく共感できるものです。
何をでっかい字で書き殴ってるんだろうと目を凝らしたら、
「CHROMATIC!!!!!!(半音階!!)」
と書いているだけだったり、
持ち替えを忘れがちだったのか、
「in A」「in A!!」「in A!!!」
と3回も書いてあったり笑。
特に日本語でない方々の書きようはダイナミックで感情が筆圧や字の大きさに現れやすく、あー、イライラしてるな、そうね分かりにくかったのネと、よしよししてあげたいようなところがいっぱいあります(だけど邪魔だから消す〜)。

ここの鳥さんの場面は、途中から4拍子で書いてある譜面を3拍子で振っている指揮者を見ながら吹く、ちょっとした難所なのですが、やはり皆さんの苦労の跡が。日本人のカタカナも参戦しています〜誰ゃ〜笑
Naoko Kotaniguchi Official Blog

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