春とリードと半狂乱

4月は、1年のうちで最も乾燥する月なんだそうです。

なんとなく冬のほうがずっと乾燥してる気がしていますが、春になると、大陸から乾いた風が吹いてきて、それで日本列島は乾くのだと。テレビがそう言っていました。(黄砂とか、PMなんとかとか、飛んでくるのはそういえば確かに、冬ではなく春だ)

「だからかーーーーー!!!」

と、大きな声を出してしまって、それで、納得することにしました。

毎年、3月の途中から4月にかけて、手元にあるリードというリードが突然手のひらを返したように全部おかしくなるタイミングがあって、半ばノイローゼのようになるんです。
同業の方、そんなことありませんか?私だけかもしれません。でも、そんなことない気もしています。リードなんて、年中おかしくて、年中思ったとおりにならないけど、私にとっては、梅雨より、真夏より、真冬より、春のこの頃が一番手に負えないです。だから、天気予報のお姉さんの説明で、全部腑に落ちた気がしました。しらんけどです。とにかく腑に落ちたかっただけかもしれません…

我々にとっては、どれだけ練習を積んでいても、どんなに上手な人でも、その日思い通りに吹ける「良いリード」が無かったら終わりで、良いリードと言っても今日明日でどうにかなるものではなくて、個人差ありますが例えば私は数ヶ月〜半年くらい先を見据えてリードを調整していくタイプなので、明日のリハーサルをこなすリードも、来週の本番用にアテにしていたものも、来月以降のためと思って期待して備えていたものも、全部に裏切られて、そうなると、向こう数ヶ月分の不安と恐怖と絶望が塊になって襲ってくることになります。半ば半狂乱のようになって次々と新しい箱を開けても全部ダメ、…楽器の調整が狂ってるのかもしれない、マウスピースがそろそろ潮時なのかもしれない、もう引退したほうがいいのかもしれない…ぐるぐるぐる、と、この辺りを思考が30周くらいしてヨロヨロになった頃に、そういえば毎年、季節がひとつ落ち着いて、リードが悪夢から少しずつ蘇ってくるのでした。渦中にいるときは本当に生きた心地がせず必死にもがき苦しむので、それがだいたい毎年似たような時期にやってくることを忘れがちなのですが、そういえばそうかもしれない。そうだ。季節のせいなら、気を確かに保てるかもしれない。

今日は久しぶりに雨が降って、これからしばらく雨みたいですね。雨は普段は嫌だけど、リードが少しは元に戻る様子を見せてくれるか、そうでなくても何か変化の兆しが見えることを心の底から願っています。


コロナ禍が始まってすぐの、あの、全ての本番、全ての仕事、全ての予定を失った、完全ステイホームの数ヶ月。あのとき、びっくりしたのは、今日をしのぐリード、明日のリード、明後日のリード、来週のリード、来月のリード、再来月のリードなどなどの心配を、一切しないでいい生活が、あんなに精神的圧迫がなくて、穏やかで、なんて安らかなんだと気づいてしまったことでした。
中学1年生でクラリネットを持った日から、リードの心配をしない日は1日もありませんでした。演奏が仕事となり、毎日のスケジュールとして途切れなくこなさらければならなくなってから、殊に首席奏者になってからは、逃れられない大きな大きな恐怖心として、片時も離れず自分の傍にあったことを、それが当たり前だった時には気づかなかったけれど、思い知ってしまった。
実際に仕事がまったく無かったのは結局4か月程だったけど、あれ以上長かったら、たぶん、もう戻ってこれなかった気がしています。感覚が鈍るとか、そんな生やさしいことではなくて、こんな厳しい恐怖心や緊張感に再び継続的に耐え続ける覚悟が、もう取り戻せなかったような気がしています。

そうそう、コロナ禍が始まった頃に、これは世界の物流が止まるかもしれないと思って、マスクより何より先にリードを買い込んだのでした。
(なんだかんだ言いながら、楽器吹きたいんやな、私!)
と、自分の行動に呆れたり可笑しくなったりしつつ、これがなくなるのと楽器やめるのとどっちが先かなぁなんて思っていたけれども、気づけばその100箱はいつの間にかなくなっていて、そしたら今度はウクライナがあんなことになり始めて、世界が核戦争にでもなったら大変だと、人目をしのんで一目散に買ったのはまたリード100箱。笑。
…ここで気づいたことがあります。どうやら私は2年で100箱、1年で50箱くらいのリードを使っているらしい(今まで考えたこともなかった)。12ヶ月で50箱ってことは、ひと月4箱チョットの計算ですか?なぁんだ普通…
さて、今の100箱がなくなるのが早いか、私の気持ちが途切れるのが先か。いよいよ危ないような気がしてきたような、そんなことはずっと前から言ってるような。
いつまでもは吹いていない気がしてきたので、吹いてるうちに、もしよかったら、機会があったら、聴きに来てくださいね。ありがとうございます。




(注)リードというのは、クラリネットの先っちょに付いている、芦の材を薄く削いだような、縦5〜6cm×幅1cmほどの木片です。息を吹き込んで、これが振動することによってクラリネットは音が出ます。ごくわずかの例外を除いて、リードの材は南フランス産です。南フランスのリード畑が×になったら、全世界のほとんどのリード楽器奏者が路頭に迷うことになります。あ、和楽器の篳篥(ひちりき)は、日本のどこかの芦原に生えてるのじゃないとダメとか、言ってましたね確か。いえ、そんなことより何より、世界の平和を心から願います。


(ほんの前置きと思って書き始めたのがまた長くなってしまったので、続きは改めて書きます)