レッスンの感激

9月定期、両日ともにたくさんのお客様にご来場いただき、本当に嬉しかったです。
山下牧子さんの『原光』が、とても心に響いて、山下さんの声も素晴らしくて、感激でいっぱいでした。京響コーラスの皆さんも、延期になってからの2年間ずーっと練習してくださったのでしょうかと思うほど、リハーサルの時から、最初のひと声がうまれた瞬間に

「…!!」

となりました。本番は、もっと。すごかったです。京響コーラスの方々とは、舞台裏でも階が違ったままでお声がけすることも全く叶わず、胸いっぱいの感謝を振り返って拍手を送るのが精一杯で、そんなんじゃ足りなくて毎回無念なのですが、本当に感謝しています。

定期が終わって、次のリハーサルまでの隙間に、ウェーバーのレッスンを受けてきました。
誰に習いたいか、聴いてもらいたいか、会いに行きたいか、早くから決まっていました。でも、この歳になると、勇気を振り絞ってレッスンをお願いしても、断られることも実際あって、断られるショックを思うと電話に向かう決心が揺らいでしまったり、そもそもレッスンをお願いできるほど吹けてるんだろうか?まだ自分で出来ることがあるんじゃないだろうか?…でも、私は学生の頃こんなふうにばかり考えてしまって陽気にレッスン室へ突撃することができなかったことをとても悔いているので、今回はそれはナシ!とにかくここはおばさんパワーを炸裂させて勢いでお電話をし、レッスンをお願いして、それまでに絶対に仕上げる!そう思って夏を過ごしていました。
20年前、日本音楽コンクール本選会の前に、モーツァルトをいよいよどう吹いていいか完全にドツボにはまってしまって苦しかった時、たった1時間だけ、門下の生徒でもない私を受け入れてレッスンしてくださった、その先生のところにいきました。

あの1時間のことが忘れられなかったのです。
悩みながら自分の思うモーツァルトを懸命に吹く私の隣で、先生は歌ってくださり、踊ってくださり!、一緒にピアノを弾いてくださいました。ここがこうなって、こうなって、ね、ほら、音楽ってこんなに楽しいものでしょう、こんな素晴らしい音楽を心から楽しもう、楽しんでいいんだよ、大切なことはもっと他にあるよ、ということを、体いっぱいで教えてくださいました。モーツァルトが、しかめっ面じゃないように思えた、初めての日。感激のひとときでした。
…あの日のことを思い出すほど、今夏の私は同じような苦しさの中にいたのかもしれません。また、こんな機会でもなければ、もう先生にレッスンを申し込むほどの大きな理由がこの先はもう見つからないような気もしました。あるいは、ウェーバーを言い訳に、ただ先生に会いに行きたかっただけかもしれません。…とにかく、緊張しながらもそれを大きく上回る楽しみを胸に抱えて、新幹線に乗りました。

『そんなね、レッスンなんていうほどのことなんてないんだけどね、でも聴かせてもらえるなら嬉しいゃ、あはははは』
と、先生は変わらずひょうきんに迎えてくだって、前奏を弾き始めてくださいました。私は、自分の思うウェーバーを精一杯表現しました。私のためにとってくださった2時間が、あっという間に過ぎました。ただ楽しくて嬉しくて、新しい気づきもたくさんありました。ひとつの音の発音、音程、歌い方などなど、知らず知らずのうちに自分の気持ちや視点がどんどん小さなことに囚われてしまっていたことも思い知り、大きく扉がまたひとつ開いたような明るい気持ちになって、そうだ、がんばろう、と、帰ってきました。ただフレッシュに緊張しているだけだった若き頃とは違って、20年も在籍する自分のオケに伴奏してもらうのは、いろいろとまた違った気持ちの難しさがあって…と、言いかけて、みなまで言わずとも即座に解ってくださった先生。それも、ありがたかった。誰にも言えないような気持ちを、同じ道を先に歩かれた先輩が解ってくださる。充分だった。あと半月がんばろう。楽しもうと思います。


Naoko Kotaniguchi Official Blog

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