Frei, aber...froh!!(4月定期のこと)
これを書かずに4月を終えることはできない、と思って、ギリギリセーフなのか完全アウトなのかあんまりわからないですけど、書きます。
我々の新しい常任指揮者として来てくださった沖澤のどかさんとの、初めての定期演奏会のことです。
私は、モーツァルトの『魔笛』序曲、ブラームスの交響曲第3番に乗りました。
プレトークで、『魔笛』が彼女にとってどれほど思い入れのある大切な作品であるかを知って、納得しました。
『魔笛』序曲は、我々もこれまで何度も演奏してきましたし、指揮者によって色んな解釈やアプローチがあるのも見て聴いて体験してきて、何となく、どれかな、まぁ、始まってみてからだな、と思いながら楽しみにリハーサルに臨むのが毎回です。
最初の、3つの和音の作り方です。
沖澤さんの求める響きは、今まで誰がやったものとも違うものでした。なんとすっきりとした、力みのない音。うまくいった時、ハッとするような、聴いたこともないような綺麗な響きでした。…それを実際に音にして出すのは我々なので、シンプルであればあるほど、狙うのは怖くなるわけですが。でも、狙ってできることでもないので、何度も練習して、うまくいった時の響きをしっかりイメージして、狙って狙わず、力まず、よく聴いて、すっきりと。
いちばん印象的だったのは、ブラームス3番のリハーサルの2日目だったかそれくらいに、この曲の第1楽章冒頭のイメージについて語られた時でした。
ブラームスの3番の冒頭、F-A♭-Fで開始することについて、彼の盟友・ヨアヒムの「Frei aber einsam(自由だが孤独に)」のモットーを念頭に、「Frei aber froh(自由だが喜ばしく)」というメッセージを込めたという話に触れながら、
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ブラームスの3番というのは、ベートーヴェンの3番を引き合いに「ブラームスの《英雄》」というふうにさまざまな本にも書いてあるし、先生方からも聞いてきた、だけど私は実はそんなふうには思わない。ブラームスの3番は、そんな雄々しく逞しく勝ち誇るようなイメージではなくて、まさしく“froh”という言葉そのものに、喜ばしく、なんとも言えない嬉しさと、解放感をもって始めたい。それは、例えば日本の「4月」という特別な季節、桜もそうだけど、新学期とか、新年度とか、新しい船出とか、そういった「始まりの季節」に特に相応しい音楽だと思って今回のメインに選んだ。もちろん、私自身や私と京響との新たなスタートということもあるけれど、それよりも、この4月から新しいスタートを切る全ての人たちに、皆さんの力を借りて、この"froh"を届けたいと思う。
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…だからそんなふうに弾いてほしいと。すみません、私の記憶を辿って書いたので多少違うところがあるかもしれませんが、でも。そんなふうに言われたら。もう、そのためにがんばるしかないでしょう!と、思いませんか。思いましたとも。
「私はそんなふうには思わない」というのも、先達の意見をはねつける感じでは決してなくて、でも、それをはっきりと言えるほど自分の考えがクリアであることや、その潔さに、彼女の素晴らしさを感じました。もしかしたら、ほとんど男性ばかりが音楽を語り、作ってきた長い歴史の中で、ついつい見解が偏りがちだったこれまでだったのかもしれません。例えば、このようなことの1つ1つこそが、女性もその中に居る価値だと感じました。女性が男性に逆立ちしても敵わないようなことは、たくさんあります。けれども、負けるもんかと男みたいな顔をして力一杯やるだけが芸じゃない。女の人特有の柔らかな感性や視点、女の人の繊細な指先からこそ紡ぎ出される音というのがある、と、彼女は教えてくれます。だから、私たちはすごく勇気づけられる。若くして『常任指揮者』のポジションを得たこの晴れがましい春に、自分をどう見せるかとか、自分をどう売るとか、誰を味方につけるとか、そんなことが彼女には1mmも見えない。ただ音楽だけのために、それを届ける聴衆の心のために。
"froh"というのは、日本語ではとても表しきれないですが、辞書に書いてあるのは、「楽しい、愉快な、朗らかな、ほっとした、感謝した、喜ばしい、〜をうれしく思う、などなど」…全然表しきれませんが、例えば、「新年おめでとう!」の、「おめでとう」が、これにあたります。
新年おめでとう!
Frohes neues Jahr!
心からの、わくわくするような、と、しみじみと、ほっとするような、ありがたいような、なんとも晴れやかな。
「froh(フロー)、お風呂ではありませんよ」
と、いつものようにチャーミングに冗談を付け加えて、彼女のおかげでとってもfrohなリハーサルでした。
皆さんが、晴れやかに新年度のスタートを切れていますように。ちょっと疲れた人は、ゴールデンウィークで良いひとやすみができて、また朗らかに5月を歩いていけますように。
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